発電量は従来風車の3倍。「レンズ風車」がエネルギー革命を起こす

騒音や立地、バードストライク……など、再生可能エネルギーの旗手として期待されるも課題の多い風力発電。しかし、そうしたデメリットのほとんどを克服し、日本、いや世界のエネルギー事情を一変させるかもしれない、次世代型風車が始動した。その仕組みとは?

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騒音の心配もなく、空を飛び交う鳥の命をしっかりと守る文字どおり環境共生型の発明「レンズ風車」



再生可能エネルギーの比率を高めていこうというのは、先進国に共通した目標だ。「太陽光」「風力」「バイオマス」が3本柱といわれるが、世界的に最も期待されているのは実は風力発電である。例えば、EU諸国は2020年までに、米国は2030年までに、全電力需要の20%を風力に代えるという政策目標を掲げている。

とはいっても、風力発電には課題もある。敷設面積の大きさの割に発電量が少なかったり、鳥が巻き込まれて死亡する「バードストライク」や運転中の騒音被害など、デメリットも多い。

しかし、そうした欠点のすべてを克服し、従来の風車の3倍の発電量(!)を誇る革新的な風車が注目されている。九州大学の大屋裕二教授が率いる応用力学研究所が発案した「レンズ風車」がそれだ。一見すると、風車の翼が筒状のもので覆われていて、それ以外は特別変わったところはなさそうだが……。

この風車のいったいどこに、従来の3倍もの電力を生む秘密があるのか? 日本の風力発電の救世主と目される「レンズ風車」の仕組みに迫るべく、大屋教授に話を聞いた。

■風車のあらゆる弱点を克服!

日本の場合、風力発電の普及には地理的な難点がある。早くから普及しているヨーロッパと比べて風速が弱く、風向きも頻繁に変わるからだ。しかし、そうした弱点を克服し、安定した発電量を得るため、大屋教授らは新たな風車を開発。それが「レンズ風車」だ。レンズが光を屈折させて太陽光を集めるように、風車の翼(ブレード)を囲む筒状のディフューザ(集風加速装置)が風を集めるところから名づけられた。

ディフューザは、メガホンのように両端のサイズが異なり、後方にはつばがつけられている。吹きつける風がそこを通過すると風の渦が発生し、風車の後方の圧力が低下する。風は圧力の低いほうへより流れる性質を持っているため、このつば付きディフューザによって増速された風が一気にブレードに流れ込む仕組みだ。

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風車の発電量は風速の3乗に比例するという法則がある。「レンズ風車」では風車に当たる風が1.4倍に増速され、発電量は1.4の3乗でおよそ3倍になる。実用化を考えていくなかでレンズの幅は次第に短くなり、今では写真のようにブレードを囲む輪っかのような小ささになった。このようにディフューザのコンパクト化は進んだものの、それでも従来の風車の2倍以上の出力を誇っている。

続いて、風車の問題点として指摘される運転中のノイズの問題はどう解決していったのか? 大屋教授が話す。

「普通の風車はブレードが剥き出しのため、ブレードの先端で発生した渦がらせん状に残り騒音の源になってしまうのです。でもつばつきディフューザにすると、ディフューザの内壁面でブレードの先端渦と正反対の渦ができ、互いに干渉することで先端渦が消え、騒音を打ち消すのです。考えてみると航空機のウィングレット(主翼端につけられた小さな翼)とか、潜水艦のスクリューを覆うダクトも同じ仕組みなのです」

研究所のある九州大学筑紫(つくし)キャンパスには出力3キロワットという小さめのレンズ風車が回っていた。確かに、近づいてみても驚くほど音がしない!

また、バードストライクの問題も克服してみせた。

「レンズ風車はバードストライクもまったくありません。鳥はディフューザの輪っかがあることを知覚するんです。するとブレードの部分に飛び込まずに輪の上で休んだりしてます(笑)。それでも気になるようならディフューザにネットをつけてもいい。性能が落ちることはありません」(大屋教授)

さらに、風力発電で一番怖いとされるのは、風車への落雷による発電機の損傷やブレードの破壊。ところが、ディフューザの外枠部分には避雷針をつけることが可能なので、落雷の心配も無用だ。

ちなみに、首が固定された通常の風車と違い、レンズ風車は風の強いほうへと首が回る「風見鶏型」の設計を施している。これもレンズ風車の大きな強みである。

騒音の心配もなく、空を飛び交う鳥の命をしっかりと守る文字どおり環境共生型の発明だ。

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博多湾沖で実証実験中の洋上発電ファーム。レンズ風車2基と太陽光パネル、それに大型の蓄電池が設置されている



■漁礁にもなる! 大型洋上発電ファーム

風力発電の強力な“追い風”となるレンズ風車。いわばその“発展形”として、大屋教授は大がかりな計画に乗り出している。名づけて「洋上浮体式複合発電ファーム」(洋上発電ファーム)だ。海の上に浮体型のプラットフォームを設置して、風力、太陽光、潮力や波力など各種の自然エネルギーによる発電や、漁業基地の建設を試みる壮大なアイデア。世界で初めての実証実験が今、博多湾で進行中だ。

再生可能エネルギーは「面積機器」と呼ばれるほど、とにかく広いエリアが必要。陸地が狭く平野部も限られている日本ではどこに設置するかが大きな課題だ。

そこで大屋教授は考えた……、「海に出ればいいじゃないか!」と。四方を海に囲まれた日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積では世界第6位を誇っている。

「海上の風は陸上よりも何割か強く、四方からキャッチできるので、風力発電に向いています。昨年12月に博多湾の沖合で最初の洋上ファームをスタートさせました。ハチの巣形の浮体に3キロワットのレンズ風車2基とソーラーパネルを設置しています。まだ小規模で、いわばステージ1。『これが数倍大きくなると実用的になりますよ』と、まずは皆さんに知ってもらうのが先決です」(大屋教授)

そして、1年間の実証実験を行なった後に、大規模な洋上ファームを計画中だ。大屋教授が話す。

「ステージ2は玄界灘に連結式で最大外径280m程度の浮体ファームをつくるものです。200キロワットの中型レンズ風車を5基置き、合計で1000キロワットになる風力発電を計画中です。ソーラーパネルも合計1000キロワットにして、合わせて2000キロワットの発電を目指します」

規模をわかりやすくたとえるなら、このステージ2を230ファーム設置すると、福島第一原発1号機(46万キロワット)と同レベルになる計算だ。

こうした浮体式の風力発電は福島県沖でも計画があるものの、地元の漁業組合との調整が課題。しかし、同様の心配はないらしい。

「漁業組合が大変協力的で、逆に『早く建てんね』と言われるくらいです(笑)。スウェーデンやデンマークでは洋上風車の周りになぜか魚が集まり、いい漁礁になるという話も聞く。漁業の敵ではないんですね」(大屋教授)

洋上ファームは自然エネルギーの集合体としてだけではなく、漁業との相乗効果も期待できるのだ。大屋教授が続ける。

「浮体式のキーワードは多目的です。さまざまな発電もすれば、プラットフォームの下は生け簀(す)にもなり養殖場にもなる。50m四方以上あるならマグロも可能といわれたけど、『九州だからハマチとかブリとかでよかよ』と(笑)」

陸地の狭さを逆手に取った洋上発電ファームの建設は、島国日本の本領発揮。漁業の振興にも役立てていく取り組みに大きな可能性を感じた。

■洋上風車で日本がエネルギー輸出国に?

環境省の2011年の調査によると、日本の陸上と洋上の両方で、設置可能と思われるすべての場所で風力発電を行なった場合の「エネルギー資源量」は約19億キロワットで、そのうち洋上は16億キロワットという。

もし、全体の1割強で風車が稼働すれば、日本の電力10社の最大電力需要である2億キロワットに届き、日本に必要なすべての電力を賄(まかな)うのも夢ではない。大屋教授も語る。

「領海の風を全部使うわけにはいかないから、僕たちは10分の1くらいに考えています。それでも1.6億キロワットをつくれる試算です。実験は始まったばかりですが、日本がいつかエネルギーの輸出国になる可能性もあるでしょう」

レンズ風車の目前の課題は、生産コストを今よりも下げて、世界市場で競合できる状態にもっていくこと。そして、受注を増やし、地域の中小企業を活性化できるような生産体制づくりを、大屋教授は目指している。

「再生可能エネルギーは産業の裾野が広い。例えば、ディフューザの素材は航空機のボーイング787と同じCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を使うとより軽くなります。実はこの素材は日本が世界で7割のシェアを持っている。注文を受けた地域ごとに地元の中小企業に製作をお願いする方法が取れたらいいですね。するとコストも抑えられ、雇用も増えることになる」

今年7月に再生可能エネルギーの買取価格が発表されると、多くの企業や団体が風力発電事業に参画するだろう。環境に優しく地域分散型の産業を生む可能性があるレンズ風車、そして洋上ファームが、エネルギーの革命児となる時代が、もうすぐやって来そうだ。



(取材・文・撮影/長谷川博一 写真提供/九州大学 応用力学研究所 図/nmnm)

レンズ風車の生みの親、大屋裕二九州大学教授は、「風にしろ海洋にしろ、自然エネルギーを使うには自然を知ることが大事」と語る。

[2012年05月26日]

http://wpb.shueisha.co.jp/2012/05/26/11581/

http://wpb.shueisha.co.jp/2012/05/26/11582/

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